イベントレポート:2025 技術講演会

2025.07.25 Update

イベントレポート:2025 技術講演会

2025年7月10日(木)、建築会館(東京・田町)にて技術講演会を開催いたしました。
今回も多くのお客様にご来場いただき、いずれの講演も「興味深かった」「今後も継続してほしい」「また参加したい」といった嬉しいご感想を多数いただきました。講演会に続く懇親会も盛況で、終始和やかな雰囲気の中、無事に終了することができました。
ご講演いただきましたAGC株式会社 鈴木俊夫 様、国立研究開発法人 物質・材料研究機構 吉川英樹 様、京都大学大学院 松尾二郎 様(以上、ご講演順)に改めて心より御礼申し上げます。

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ご講演

AGCにおける分析・解析部門の役割

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AGC株式会社 先端基盤研究所 共通基盤技術部 分析科学チーム
鈴木 俊夫 様

AGC株式会社 鈴木様からは「AGCにおける分析・解析部門の役割」と題して、分析・解析部門が同社で担っている役割と社会に与える影響に関して、また、同社で行なわれてきた表面分析の活用事例に関して具体的にご講演いただきました。

分析・解析部門の役割として、メカニズム解明による開発・プロセスの改善に貢献すること、出口軸(メインユニット)×技術軸(サブユニット)から成るマトリクス組織を試行錯誤して事業(出口)貢献を推進すること、分析・解析のみならず技術開発にも積極的に関わっていくこと、分析報告書、知財創出、社外発表(学会・論文)等のアウトプットを大切にすることが挙げられました。

C60スパッタの活用では、ガラス材料において重要とされる修飾カチオン(Naイオン等)の表面プロファイリングを得るためにガラス割断面のXPS深さ方向分析を行なうことで修飾カチオンの表面挙動を定量的に把握することが可能となった事例をお話ししていただきました。コロナ放電処理前後のガラス試料のXPS深さ方向分析により表面処理状態、および表面劣化(やけなど)を定量的に把握することが可能となった事例に関する講義はとても興味深い内容でした。

XPSを例とした公的材料データプラットフォームの活用と
その将来展望

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国立研究開発法人 物質・材料研究機構 
吉川 英樹 様

物質・材料研究機構(NIMS)にてご活躍されている吉川様より、装置から出力されたデータを、機械学習を適用しやすいAI-readyにするデータ構造化の自動化の取り組みについて、我々が日頃取り扱っているXPSスペクトルを例にご紹介いただきました。

NIMSは文部科学省「マテリアルDXプラットフォーム構想」において、材料研究データを収集・共有・活用するための「データ中核拠点」の形成に取り組んでおり、拠点が提供するデータ公開/共用サービス群DICE*1について詳しくご紹介いただきました。特にRDE*2のサービスは、日々の実験・計算による作業データをそのままの形式で読み取り、作業データの再利用性を高める構造化処理を自動で行うことが強みであり、我々が扱うXPSスペクトルの形式にも対応していると説明されました。また、全国規模で共用装置群の利用データを蓄積するARIM*3では、装置のメタデータや条件設定の共通化を通じて、信頼性の高いデータ基盤の整備が進められていること、DxMT*4では、蓄積されたデータをAI等で解析・活用するデータ駆動型手法が材料研究の高度化に有効であることを実証する取り組みが展開されていることも紹介していただきました。

メタデータ基盤の整備に貢献したいという思いと、データ活用の未来への期待を抱くような、貴重なご講演でした。

*1:NIMSデータ中核拠点が提供する材料研究データ公開/共用クラウドサービスの総称

*2:DICEのサービスの一つで、データの収集と構造化と共用を担うシステム(Research Data Express)

*3:文科省マテリアル先端リサーチインフラ(Advanced Research Infrastructure for Materials and Nanotechnology)事業

*4:新しいデータ駆動型研究を牽引するデータ創出・活用型マテリアル研究開発プロジェクト

SIMS:次の一手

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京都大学大学院
松尾 二郎 様

GGIBを用いた表面研究の第一人者として世界的に著名な京都大学の松尾二郎様からは、「SIMS:次の一手」と題して、SIMS技術の現状と課題、質量分析法の信号強度向上に関する最新研究についてご講演いただきました。

ご講演の中で、GCIBを用いたSIMSは、非破壊で3次元構造解析やイメージングが可能という特徴を活かすことにより、ライフサイエンス分野への応用が期待されている一方で、低分子量薬物分子の信号強度が非常に低いという克服すべき課題があり、二次イオン化収率向上の重要性について説明されておりました。特に、元の分子構造を保持した有機分子の収量を求めた結果、現状の約105倍の高感度化が潜在的に可能なことを論理的に導出された点は、私たちにとって新たな知見であり、大変興味深く印象的なものでした。

SIMSが抱える課題を示し、自らが第一線でSIMS技術開発に取り組む松尾様のご講演は、表面分析装置を開発、製造、販売する私たちを含め、お集まりいただいたユーザー様の心に響くものであったと思います。また、松尾様が築かれてきた技術を活かして、私たちも進化を続けていこうと感じることができた大変貴重なご講演でした。


貴重なご講演をありがとうございました。

アルバック・ファイより

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当社は、表面分析技術を通じて目に見えないものをデータ化し、お客様の意思決定に直結する情報提供を使命としています。  

半導体や電子機器分野においても、表面分析技術は不可欠です。アルバックの製造プロセス装置と表面分析による評価を一体化することで、より価値あるソリューションの提供が可能となると確信しています。  

表面分析技術XPS、AES、SIMSを特色に応じて適切に使い分けるとともに、複雑化する材料やデバイスの解析に欠かせない複数手法を組み合わせたマルチモーダル解析にも対応してまいります。さらに、AIを活用したデータ解析の自動化を推進し、熟練者のノウハウ継承や人手不足の解消に貢献できるよう尽力いたします。  

解析結果の正当性の提示や複雑なデータの同定など、まだ多くの課題はありますが、今後の技術開発に大きな期待が寄せられています。  

これまでの表面分析装置のご提供によるサポートに加え、その一歩先を見据えたソリューション提案に向けて、誠心誠意努力してまいります。